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2021年4月より開始する事業年度から強制適用される収益認識基準、その中の個別論点として、実務的に非常に関心が高いのが有償支給の処理に関してです。内容的にボリュームがあるため、3回に分けて解説をしていきたいと思いますが、最初は当初の基準の中での会計処理(仕訳)や適用指針の考え方について解説をしていきます。
企業が、対価と交換に原材料等(以下「支給品」という。)を外部(以下「支給先」という。)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む。以下同じ。)を購入する場合がある(これら一連の取引は、一般的に有償支給取引と呼ばれている。)。
適用指針による有償支給取引に関しては、その他の個別事項として取り扱われており、以下の通りとなっています。
【適用指針より抜粋】
有償支給取引に係る処理にあたっては、企業が当該支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する必要がある。
有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は当該支給品の消滅を認識することとなるが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない。
一方、有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しないこととなるが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。なお、その場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない。
とされています。つまり、有償支給品を企業が買い戻す義務が無い場合は、当該支給品の消滅を認識するが、買い戻す義務があると認められる場合には、支給品の消滅を認識しないということになります。
上記内容では分かりにくい方もいると思いますので、具体的な会計処理方法が、説例として公表されていますので、ご紹介すると以下の通りとなっています。
【説例より抜粋】
(1) A 社(支給元)は、B 社(支給先)と製品X の購入契約を締結している。A 社は、当該契約に基づき、A 社が製造した部品Y(A 社における帳簿価額は900 千円)をB 社に1,000千円で有償支給し、加工後の製品X を1,200 千円でB 社から購入した。
(2) 当該取引において、契約上、次の事項が定められている。
① B 社は、A 社から支給された部品Y をA 社に供給する製品X の製造にしか使用できない。
② A 社から支給された部品Y について、B 社が検収した時点で、当該支給部品に対する所有権及び危険負担は、A 社からB 社に移転する。
③ A 社には、B 社に対して有償支給した時点で、法的な債権が生じ、また、同時にB社には法的な債務が生じる。
④ A 社からB 社への部品Y の有償支給に係るA 社の債権は、製品X の納入月の翌月末日に決済される。
⑤ B 社からA 社への製品X の納入に係るA 社の債務は、製品X の納入月の末日に決済される。
⑥ 製品X の納入時点において、製品X に組み込まれた支給部品Y の価格は、支給時の価格と同額である。
(3) A 社は、B 社より加工した製品X を購入することにより、製品X に組み込まれた支給部品Y の全量を取得するため、当該契約は実質的に買戻契約に該当すると判断し、B 社が当該支給部品Y の使用を指図する能力や当該支給部品Y から残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されていることから、A 社からB 社に支給部品Y の支配は移転していないと判断した(本適用指針第69 項参照)。
(1) B 社への部品Y の支給時 (単位:千円)
(借)未収入金(*1) 1,000 (貸)有償支給取引に係る負債 1,000
(*1) 部品Y の有償支給により生じたB 社に対する法的な債権を認識し、加工後の製品Xに対する支払義務に含まれる部品Y 相当額として有償支給取引に係る負債を認識する。部品Y の帳簿価額(900 千円)はA 社の棚卸資産として引き続き認識される。
(2) 加工後の製品X のA 社への納入時(単位:千円)
(*2) B 社の加工による増価部分を棚卸資産として認識し、有償支給取引に係る負債の消滅を認識したうえで、これに係る営業債務の発生を認識する。
(3) B 社に対する債務の支払時 (単位:千円)
(借)買掛金 1,200 (貸) 現金預金 1,200
(4) 部品 Y の有償支給に係る債権の回収時 (単位:千円)
(借)現金預金 1,000 (貸) 未収入金 1,000
説例で見ると、少し分かりやすくなったと思いますが、中でも“有償支給取引に係る負債”という初めて見る勘定科目が登場します。また、仕訳を見ると見落とすかも知れませんが、(1)の時に、棚卸資産を消滅させないということがとても重要となります。また、(2)の時も、加工費分のみを別途棚卸資産として計上するというのも、一つの特徴となります。
これらの処理により、実務としてどのような影響があるかなどについて、②回で説明していきたいと思います。
②に続く
なお、関連する記事は以下の通りであるためご参照ください。